「死ぬまでにしたい10のこと」は、私の大好きなアルモドバルがプロデュースして女性監督に撮らせた映画と聞いて、去年観た。宣伝コピーは最低だったが、アルモドバルに免じて我慢して観た。主人公は無学で主体性がなく、10代でできちゃった結婚をし、2人の幼い娘と旦那とでトレイラーに住んで慎ましく生活する若いpoor whiteであった。不治の病で死ぬことがわかった彼女は周囲の誰にもそれを知らせず、猛然と死ぬまでにしたいことをリストアップしていく。そのリストの陳腐さがまた違う意味でこの映画を興味深くさせる。主人公以下、出てくるキャラクターで魅力的な人物は皆無であり、一様に陳腐であることが違う意味で胸を締め付ける。彼女が死ぬからといって、世の中はなにも変わらないし、下層の暮らしのなにも改善するわけではないのだ。浮気をしてみたい彼女の相手は凡庸でむしろ旦那のほうがよいのではないかと思わせるし、彼女の仕事仲間の女性はよくいるおばさん、母は生活で疲れていて優しい言葉のひとつもかけてこない(この母役がデボラ・ハリー!)。なにも変わらない暮らしのなかで陳腐なリストを着実に実現しようとするというほんの小さなことを拠り所にして、生き生きとしていく主人公。主人公が衰えていく描写は全くなく、こういうドラマお決まりのシーンはない。他の人には陳腐にみえることでも、とても小さなことからだけでも、生きている張りが得られるんだということを描いた映画だと思った。人生なんて、所詮こんなに陳腐ではかないものなのだという気がする。そういうところにかろうじて賛同を覚えた。